激しい胃痛と嘔吐に漢方薬(大柴胡湯と黄連解毒湯)
2019年07月30日
50代女性 訴える症状は胃痛と嘔吐
当店の近所で働く女性が、夕方に駆け込むように来店された。
胃痛と、吐き気で嘔吐してしまうので、働いていられないとの訴えである。
この女性は勤務途中の来店で、長々と問診ができるわけがないので、非常に簡単に漢方薬を選択しなければならない。
このような時には日本漢方の方証相対が役に立つ。
方証相対とは、日本漢方で漢方薬を選択する時に使われる手法で、患者が訴える症状や見た目(顔色や体格)、胸や腹の緊張や弛緩具合などから適した漢方薬を選択する。
- 体格がガッチリして、骨太で女性にしては背が高く、顔色は青黄色という表現があてはまる。
- 顔色に関しては、胃の痛みにより変色していると思わる。
- 舌の色は淡くはなく、かといって紅色が強いというほどでもない。
- 茸状乳頭には異常な充血は見られない。
- 舌苔は、それほど多くなく中央から奥にかけて少し乾燥しているかな?という程度。
- みぞおちの部分は、固くなっていて押さえられる苦しい。
- 特に口臭などの嫌なニオイは感じれない。
2、3分で上記の情報を収集する。
深読しなければ大柴胡湯であるが、念の為に口渇の有無と冷たい飲み物がのみたいのか?と便通の3点のみ確認する。
便秘、口渇もあるので胃熱の存在はありそうなので、大柴胡湯に決めて3包のみを渡す。
その女性は翌日来店されて、胃痛と吐き気に効果があり、今朝のお通じも調子が良かったので、さらに3包を持って仕事に行かれる。
しかし、夕方に治まっていた吐き気と胃痛が再発して大柴胡湯を飲むも治まらずに仕事は早退することになった。
翌日に、病院に行くと胃潰瘍であった。
そして、半年後・・・
その女性は西洋薬の胃薬を飲んでいたのであるが、すごく胸から脇にかけて張るのだけど何かしら?と訴えてきた。
前回の件もあるし、暮らしもそれほど裕福な方でもないので、無理やりに大柴胡湯をおすすめはせずに、「ストレスですよ」とだけ答えておいた。
この方は大柴胡湯証特有のおもむきがあり、いかにも気が胸のあたりで詰まり、感情も乏しく、とにかく仕事にいくのが辛いという雰囲気をかもしだしているのである。
あくまでも胃は、胸からみぞおちに詰まった気が発散できずに、渋滞をおこして炎症から潰瘍になってしまっているだけなのである。
西洋薬の胃酸をカットする薬では、胃の症状は楽になるが、停滞した気を発散することはできない。
大柴胡湯のこの方に使用するイメージは
- 柴胡、枳実で胸からみぞおちあたりに停滞した気を発散。
- 柴胡、黄芩、大黄で胃から胸、脇にかけて気が停滞することにより炎症を起こしている炎症を消火する。
- 半夏、生姜、大棗で吐き気をおさえ、弱った胃を整える。
- 芍薬、枳実で内蔵も含めて緊張してコワバッた筋膜を緩めてリラックスさせる。
- 大黄、枳実、芍薬で消化管の動きを良くして大便の通じをよくする。
読んでもらってわかるように、大柴胡湯という漢方薬は色々な仕事をしてもらっている事がわかると思います。
そして、何も胃の不調だけに使うのではなく、社会、上司、部下、夫婦、姑、自分などへの、不満が原因で詰まった気が原因で生じた様々な疾患を治癒せしめる事が可能である。(当然メンタル要素だけもなく、感冒や胆石などの外的要因から気が詰まることにも使用できる。)
大柴胡湯は気を大きく発散させる事ができる、すばらしい漢方薬なのである。
当然、胃の不調が強い時は、西洋薬のH2ブロッカーやフロントポンプ阻害薬と一緒に使用してもらっても良い。
少し話がそれたので、話を戻す。
またそれから1ヶ月後・・・
その女性は再び、前回の胃痛と嘔吐と同じような症状が起こり、勤務中に来店される。
前回も大柴胡湯で効果があったが、症状を抑えきれなかったのでもうひと工夫が必要である。
私の考えでは、症状が強いでの大柴胡湯を2倍量で切り抜けれると思うが、規定量の2倍量というと、不審がられそうなので止めておいた。
少し乱暴ではあるが
- 胃熱を冷ます目的(この場合は胃の炎症)
- 逆流した胃液を降ろす目的
- どうしようと焦る事により、高まった心火を抑え込む目的(胸のあたりのざわざわ感)
上記の目的で苦寒の大剤である黄連解毒湯を大柴胡湯に追加で飲んでもらう事にした。
結果、この2剤で胃の痛みや嘔吐は軽減することができて、食欲も増えて便通も良くなった。
少しの間は黄連解毒湯を大柴胡湯に追加で飲んでもらい、症状が良くなった頃に大柴胡湯のみにした。
この方の病の原因は、職場環境なので職場環境が改善されるか、本人の心持ちが変わらない限り、上記の症状が起こりやすい状況は続く。
但し、大柴胡湯を継続的に服用していれば、よっぽどのストレスが急にかからない限り防げるだろう。
漢方薬が西洋薬と違うところは、人体に流れる気をイメージして、生薬を処方できるところである。今回の件に関して言えば、原因は胃ではなく、あくまでも胃痛は胸から脇、みぞおち部分の気がストレスにより停滞した事で二次的に起こったことである。
世の中には、色々な悩みを抱えて気が詰まっている方が非常に多い。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。