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過敏性腸症候群(IBS)と効果のある市販の漢方薬

2024年03月31日

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群(IBS)は消化管(食道〜肛門まで)の運動障害から起こる機能性消化管障害のひとつで、腹痛あるいは腹部の不快感とそれに伴い便秘や下痢といった便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態です。日本の成人の約15%にみられ比較的頻度の高い疾患になります。

明確な原因は不明ですが、肉類や油物の摂取量の増加・冷たいものの飲み過ぎ・精神的なストレス・抗生剤の服用による腸内細菌叢の乱れなどが考えられています。

最近では腸と脳が内分泌系や自律神経系を介して、脳と消化管が互いに影響を与え合う腸脳相関が過敏性腸症候群(IBS)が原因ともいわれています。

過敏性腸症候群の治療に漢方薬は有効な事が多く、日々の不快な症状の軽減をする事ができます。

しかし精神的なストレスが強い方や不安感が強い方は、自分の体質にあった漢方薬に加えて自分なりのストレス軽減方法や、極端にストレスが強い場合はそのストレス源から逃げる事も必要になってきます。

過敏性腸症候群に効果のある市販の漢方薬

桂枝加芍薬湯『傷寒論』

構成生薬→桂皮・芍薬・甘草・大棗・生姜

一番有名な漢方薬である桂枝湯の中の芍薬の量を倍増した処方構成になっています。芍薬を増やす事で薬力を腹部にむけて、お腹の緊張した筋肉を温めながらゆるめる事により消化管の蠕動運動を正常化しますので、下痢型の潰瘍性大腸炎郡または便秘型の潰瘍性大腸炎ともに使えます。

便秘した時にお腹の痛みが強い場合は、大黄を加えて桂枝加芍薬大黄湯にするとお通じがよくなりお腹の不快感も軽減します。

半夏瀉心湯『傷寒論』

構成生薬→半夏・黄芩・乾姜・人参・甘草・黄連・大棗

半夏瀉心湯に入っている半夏・乾姜・人参は温める生薬、黄芩・黄連は冷やす生薬になっており寒熱が入り混じっている処方構成となっています。

中医学的には上熱下寒(じょうねつげかん)という状態で、胸〜頭部にかけては熱をおびてお腹が冷えるといった熱と冷えのアンバランスが起こっている状態です。

上の図のように寒熱のアンバランスがおこるので、みずおちに痛みやつまり・かるい膨満感(心下痞硬)を感じるようになります。

黄芩・黄連で神経を鎮めて、乾姜・人参でお腹を温め上下のバランスを整えて神経を鎮める事によって、不快な軟便や下痢を改善する事ができます。

軟便や下痢の回数が多かったり、神経の高ぶりが強く不眠傾向があるものには甘草を増量した甘草瀉心湯にすると、精神的な刺激により腸の蠕動運動が亢進するのを抑える作用が上がります。

四逆散『傷寒論』

構成生薬→柴胡・枳実・芍薬・甘草

緊張した筋肉をゆるめ痛みを緩和する芍薬甘草湯に、いらいらした神経を鎮める柴胡にお腹の緊張をゆるめる枳実を加えています。

四逆散は中医学的には肝気鬱結(かんきうっけつ)といわれる、精神的なストレスを受けた時に自律神経が乱れ不調が起こる時に使用されます。その不調が特に胃腸に現れやすい方は四逆散の適応症になります。

四逆散で神経を鎮めてお腹の緊張をゆるめる事によって、過敏性腸症候群からくる痛みを伴う便秘・軟便・下痢を改善することができます。書籍によっては四逆散は便秘型の過敏性腸症候群に使用する事が書かれていますが、実際の相談の現場では下痢型の方にも効果がある事は少なくありません。

大柴胡湯『傷寒論』

構成生薬→柴胡・黄芩・芍薬・半夏・生姜・枳実・大棗・大黄

四逆散から甘草を抜き半夏・生姜・黄芩・大棗・大黄を加えており、四逆散よりも肝気鬱結(かんきうっけつ)傾向が強く、内に熱を帯びる場合に使用します。

よく便秘薬に使用される大黄が入っている事から便秘型の潰瘍性大腸炎に使用する事が多いですが、一部の下痢・軟便型の潰瘍性大腸炎の方にも、朮や茯苓を加える事によって改善する事もあります。

大柴胡湯の添付文書には、体力が充実してや肥満などの文字がありますが、やせている女性でもみぞおち周辺が硬くなり触られると痛む方に、うまく量を調整すると効果がありますので、添付文書にとらわれすぎると、大柴胡湯を使用する機会を失う事になります。

加味逍遙散『和剤局方』

構成生薬→柴胡・薄荷・当帰・芍薬・茯苓・白朮・甘草・山梔子・牡丹皮・生姜

気・血・津液の乱れに対して全面的に対応できる漢方薬です。

柴胡・薄荷・芍薬→気の乱れ

当帰・芍薬・甘草→血の乱れ

白朮・茯苓・生姜→津液の乱れ

さらに牡丹皮・山梔子が入る事で胸から頭にかけての神経の高ぶりからおこる不快症状である頭痛・めまい・不眠・いらいら・不安・動揺などを鎮める事ができます。

メンタルの上下によって腹痛や腹部の不快感とともにおこる、過敏性腸症候群の便秘・下痢または交互に起こる症状に対しても改善する事ができます。便秘型の場合は大便がコロコロして残便感が残るというのも加味逍遙散が効果が出る目標です。

加味逍遙散は月経前症候群(PMS)の、いらいら・頭痛・肩こり・胸のはりなどに体質にあえば効果を発揮する事が多いですので、過敏性腸症候群の症状に加えて月経前症候群の症状がある場合は適応する事が多いです。

参苓白朮散『和剤局方』

構成生薬→人参・白朮・茯苓・甘草・山薬・扁豆・蓮肉・薏苡仁・砂仁・桔梗

人参・白朮・茯苓・甘草の四君子湯に生姜や乾姜・桂皮などのお腹温める作用が辛味の生薬が入っていいないので刺激が少なく弱った脾胃を建てなおす事ができ、蓮肉・山薬・薏苡仁が入る事で、慢性的な下痢への効果が強まります。

長期に下痢が続いていたり・抗生剤服用後のダメージからの下痢により、腸の粘膜が弱っている状態に安心して使用する事ができます。配合さている蓮肉には下痢を止めるだけでなく、安神作用があり、過敏性腸症候群に対する軽度の不安に対しても効果が期待できます。

中国の文献では脾虚タイプの潰瘍性大腸炎にも使われる事が多く、私も過去に潰瘍性大腸炎に使用して著効した経験があります。

柴胡疎肝湯『医学統旨』

構成生薬→柴胡・枳実・芍薬・甘草・香附子・陳皮・川弓

過敏性腸症候群の一種である脾湾曲症候群に時に効果を発揮することがある漢方薬です。

過敏性腸症候群でお悩みの方で多いのが、ガス(おなら)です。

ガス型の過敏性腸症候群の原因のひとつとして、ガス(おなら)が出てしまう恐怖から空気を胃に飲み込んでしまう呑気症(どんきしょう)が考えられます。

柴胡疎肝湯は胸とお腹の過緊張を軽減する事によって、呼吸を正常にして不快なガス(おなら)症状が軽減する場合があります。

ただし実際の相談の現場ではガス(おなら)への恐怖が強ぎて緊張がとれにくい場合には、漢方薬を飲むだけでは効果のない事も多く、漢方薬を飲みながら「ガス(おなら)は誰でもするものなので大丈夫」と自分に少しづつ自信をつけていく必要があります。

以上、過敏性腸症候群(IBS)の効果のある漢方薬とその適応ポイントになります。

過敏性腸症候群(IBS)でお悩みの方で、漢方薬を飲んでいる方や飲もうとしている方の参考になれば幸いです。