自律神経失調症が漢方薬で改善した症例
2019年07月03日
30代 男性 6月上旬来店
その方は、仕事でのストレスが多くなり、体の不調を訴えて来店された。
ブラック企業にお勤めであり、サービス残業も気にせずバリバリと働いていたのであるが、ライバル企業が現れて以来、自律神経の調子もおかしくなってきた。
その方は力の限り働いているのに、「これ以上どう努力すれば良いのだ?」と嘆いていらっしゃるが、全くその通りであると思う。
常に頑張らなければいけないと思いが、必然的に交感神経のスイッチをONにする機会が増える。
別に仕事中にONの状態であれば構わないのであるが、問題は仕事が終わってからも常に仕事の事が頭から離れずに、交感神経をOFFに切り替えづらくなる事である。
ライバル企業の出現は、会社の業績を現状維持することが難しくなる。このような時は努力しても報われる事が少ない。しかし会社は、それでは許してくれない。当初に組んだ予算達成のために、常に努力を求められるのである。
これこそ完全に負け戦を戦う将である。このような時に、ドラマみたいに奇策を思いつき打開策を見つけて、危機を脱出するようなパターンはまず起こる事はない。ひたすら耐え忍び、勝機をうかがうのみだ。
しかし、この方は睡眠時間を削り、何か案がないかと書籍を調べてアイデアを探っていた。そのような事をしている内に、体調がおかしくなっている事に気づく。
- 睡眠が非常に浅く、何度も目が覚める。
- 急に心臓がドキドキと不安感が出現する。
- 口が異常に乾く。
- 大便の回数が増え、軟便。
- 特に、夜に足冷え。しかし、胸から顔にかけては熱がこもった感じになる
- 食欲不振
- 朝に吐き気がする、歯磨き時によく「ウエっ」となる。
上記のような自覚症状である。そして舌の状態は、中央部から舌根にかけて苔が厚く、やや黄色、苔はねっとりとしているが、やや乾燥傾向である。先天的なものかわからないが、舌尖部に2本の裂紋がある。
この方は診療内科に行って安定薬をもらうのが嫌で、この不快な症状を漢方薬で少しでも楽にならないか?というのが相談内容である。
自覚症状と舌の状態から見て、どれぐらい効果がでるかはわからないが、方剤の選定はそれほど難しくはなかった。
明らかに寒熱に関しては上熱下寒であり、足冷えと軟便、胸からの熱感による口の渇きが共存している。そして不安感からくる動悸と不眠である。
- 要は、下半身〜下腹部は温めるが、胸から頭にかけて熱を冷ましながら気を発散してあげる。心身不安や動悸に関しては、安神作用のある生薬を使用する。
漢方家の方はズバッと方剤が浮かんだと思います。
そうです。
柴胡・黄芩・栝楼根・甘草・乾姜・桂皮・牡蛎の強胸虚散です。(あえて、この方剤名で応援。)
- 柴胡・黄芩・栝楼根⇒胸から上の熱を清しながら発散する。(石膏や知母では胃腸にこたえそうなので、栝楼根がちょうど良い)
- 桂皮・乾姜・甘草⇒下腹部を温めてあげて、上に昇った気を引き下げる。
- 桂皮・甘草・牡蛎⇒心の臓の鼓動に力強さを補いつつ、動悸を納める。うまくいけば睡眠状態も改善される。
このようなイメージで強胸虚散を1週間分をお渡しする。
次回来店時には、症状が出た時に1包を飲むだけで、明らかに不快な症状が半分くらいには軽減した。と喜んで来店された。その方の工夫で、1日2回は朝晩の内服の時間帯を決めて、昼の1包は不安感や焦りが出た時に飲むようにしたらしい。不安や症状に完全0になるわけではないが、この漢方薬で症状が軽減できることにより、仕事ができているので良いという事だ。
本人が満足しているであるから、特に追加することなく同じ方剤をお渡しする。
この方の前向きな性格が、漢方薬の効きも良くしたのだろうと思う。ストレスがメインで不快な症状が発生する場合は、本当に難しい印象があるからだ。免疫疾患の場合はなおさらである。免疫系統は明らかに、ストレスにより異常が引き起こされる。
漢方薬はそれぞれの生薬たちが、同じ仕事をしてくれる裏切らない存在だ。しかし、人間の不安感や不満などは無限にでもふくらます事ができる。
例えば、漢方薬の仕事量が10はしてくれるとしても、不安の増長により必要な仕事量が50にも100にもなるからだ。
人間って本当に繊細にできている、考える動物なのである。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。