正気と邪気の考え方と治療法について(正邪相争)
2022年10月19日
正気(せいき)とは
正気とは生きるために必要な身体の機能で、邪気(じゃき)に対する抵抗力や邪気により損傷した機能を正常に戻す力の事を指します。
健康であれば正気(せいき)の力は正常に働き邪気が侵入しにくく、侵入してもすぐに回復するので病気になりにくいです。
邪気(じゃき)とは
邪は正気の正の反対を意味を表す言葉で、正しくない気の事で、正気をさまたげて身体の機能を正常に働かせなくする力を指します。
邪気を具体的に説明しますと、かぜの原因であるウイルスや傷口を化膿させる細菌・アレルギーをひきおこす花粉やハウスダストのほかに、気温・湿度・気圧(外感六淫)や人間関係や嫉妬・貧困・プライドなどからくる精神的ストレス(内傷七情)があります。
さらに言えば、食べすぎ・働きすぎや逆に横になってばかりいる怠惰な生活・ケガや骨折からも邪気は発生します。
適度な刺激は成長や回復を助けて、過ぎたる刺激は邪気となり病気の原因になります。
適度な刺激になるか邪気になるかは、体質や正気の強さによって決まります。
例えば、ある人にとっては快適な温度なのに、自分にとっては寒く感じてお腹をこわす事があるように、その人の正気の働きを妨げて異常をひきおこす状態になった時に邪気になります。
ただし強すぎる刺激は体質や正気が強くても歯がたたずに、全員が病気になったり命が亡くなります。(例⇒放射能・交通事故・南極の寒さ・砂漠の暑さ・台風の突風など)
病気は正気と邪気のバランスがくずれた状態
病気になり不快な症状がおこっている時は、正気と邪気が争ってバランスが大きくくずれた状態で、この事を【正邪相争(せいじゃそうそう)】と言います。
邪気が強くなれば、正気が弱っていきます。
正気が強くなれば、邪気が弱っていきます。
正気と邪気の差が極端になるほど、病気が治りくくなり症状の不快度が増します。
正気が多ければ病気にならないのでは?
では「正気が多ければ病気にならないのでは?」と思う方もいると思います。
多すぎる正気は邪気に変わるのが中医学の考え方で、この事を【陰陽転化(いんようてんか)】と言います。
たとえば喜びの感情は、気持ちをゆるませて血脈の流れをよくします。
西洋医学でもエンドルフィンというホルモンが出て幸せに感じたり、免疫力があがるといわれていますよね。
ここまでは正気が高まってると言っていいでしょう。
しかし喜びの感情がやまぬ事なく続くと、血に熱がもち不眠になったり精神状態がおかしくなってしまいます。
この状態では、もう正気ではなく邪気になってしまっています。
結局のところはバランスが大切という事です。
漢方薬での治療は正気と邪気のバランスが大切
これは基本原則です、さきほど過ぎたる正気は邪気に変わる事も頭にいれておきましょう。
漢方では、病気の人の崩れた正気と邪気のバランスを整えてあげる事ができます。
漢方にできる事は、これに尽きるといっても過言ではありません。
弱って傷ついた正気を補い、旺盛になった邪気を瀉す(しゃす)のが原則になります。
正気と邪気のバランスを考えた治療法
治療法には正気を補う補法(ほほう)
と
邪気を瀉す(とりさる)瀉法(しゃほう)
があります。
正気を補う補法は不足した気を補う治療法ですので、誤って邪気におこなってしまうと逆に邪気の力をつけてしまい、病気や症状を悪化させてしまいます。
邪気を瀉す瀉法は、旺盛になった邪気の力を奪いますので、弱っている正気におこなってしまうとさらに正気を弱らせてしまいます。
このように患者の状態によって治療法を変える必要があり、その方にあった治療法を判別する必要があります。
判別を誤ってしまうと、治療するはずが逆に病気や症状を悪化させてしまいますので、注意が必要です。
以下に治療法と適応する漢方薬の例を記載しますので、漢方薬での治療をイメージをするのに参考にしてみてください。
扶正去邪(ふせいきょじゃ)
弱った正気を助ける事によって、邪気を取り去る治療法。
病気になってから時間がたっている場合や過労などで疲労状態が続いている場合に、邪気の勢いは強くないが正気が弱りや損傷が大きく、正気を回復させる事によって残存する邪気をとりさります。
漢方薬の例⇒四君子湯・四物湯など
去邪復正(きょじゃふくせい)
邪気を取り去る事によって、正気を回復させる治療法。
邪気が侵入したばかりで正気が大きく損傷していない時や正気も邪気も旺盛な方に、邪気をとりさる事によって、正気を回復させます。
漢方薬の例⇒麻黄湯・黄連解毒湯・桂枝茯苓丸・桃核承気湯など
攻補兼施(こうほけんし)
邪気を攻めながら正気を回復させる事を、同時に行う治療法です。
邪気を取り去る治療のみだと正気を傷つけ、正気を回復させる治療のみだと邪気を勢いづけてしまいますので、正気を回復させながら邪気をとりさる事を同時におこないます。
漢方薬の例⇒小柴胡湯・半夏瀉心湯など
教科書的にはこのような内容になりますが、実際の相談の現場では漢方薬を組みあわせてバランスをとったり、治療の段階によって治療法を変えたり、この考えを元に応用する事も少なくありません。
病名と漢方薬について
よくあるのが西洋医学の病名や症状に対して、適した漢方薬を決めるというやり方です。
この事を【病名漢方治療】と言います。
例にあげますと
- かぜ=葛根湯
- アレルギー鼻炎=小青竜湯
- 後鼻漏=六君子湯
- 逆流性食道炎=六君子湯
- 生理痛=当帰芍薬散
- 嗅覚障害=当帰芍薬散
- アトピー性皮膚炎=温清飲
- 気象病=五苓散
- めまい=沢瀉湯
- 耳管開放症=加味帰脾湯
- ダイエット=防風通聖散
- 慢性疲労症候群=補中益気湯
このように病名や症状に対して、漢方薬を決めてしまうやり方です。
このような漢方薬の使い方でも効果がないわけではないですが、このやり方には正気と邪気の考え方は使われていません。
同じ病名や症状の方でも、正気と邪気のバランスは違います。
漢方薬は漢方のモノサシで考えられたお薬ですので、漢方のモノサシを使った方が効き目が上がります。
正気と邪気のバランスも漢方のモノサシのひとつですので、このモノサシを使ってその人にあう漢方薬を考えた方が治療効果は格段に上がりますし、漢方薬による副作用が起こりにくくなります。
今回のブログでは正気と邪気の事をあげて、それに対する漢方薬での治療法を書きました。
漢方薬で病気や症状を治療する時にイメージを描く時の助けになれば幸いです。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。