夏になると酸化マグネシウムで下痢してしまう便秘に漢方薬が効果的であった症例
2024年11月27日
便秘を改善したい
主訴は春〜夏にかけて便秘と下痢を繰り返すというお悩みでご相談にこられました。
40代 女性 やややせ型
病歴:腸閉塞・過敏性腸症候群
服薬:酸化マグネシウム
秋から冬にかけては酸化マグネシウムで良い排便を維持できるが、気温が上昇してくると便秘がちになり酸化マグネシウムの量を増やさないと出ないようになり、便通はあるが下痢が続いてしまうようです。
過去に腸閉塞になった事があり、便秘が続くと不安になってしまうとの事です。
西洋医学的な便秘の分類
便秘は大きく機能性便秘と器質性便秘にわけられ、器質性便秘は腸の腫瘍や炎症による大便の通過障害からおこり、大腸以外の器質的疾患にともなう大腸の運動異常からもおこります。器質性便秘はその原因を治療する必要あります。
そして機能性便秘は食事性便秘・直腸性便秘(習慣性便秘)・弛緩性便秘・痙攣性便秘にわけ、治療もしくは生活習慣の改善が必要になります。
漢方での便秘の分類と治療
では漢方での便秘の分類をみてみましょう。
漢方で便秘を分類すると病気や食べ過ぎ・ストレスなどから自律神経の乱れておこる実秘(じつひ)と、身体の弱りからおこる虚秘(きょひ)にわけられ、実秘の原因として熱積・気滞があり虚秘の原因には気虚・陽虚・血虚があります。
このように西洋医学とは違うものさしで便秘を診断して治療する事で、病院での治療がうまくいかない場合にも漢方薬で効果が出る事があり、長年の便秘体質の改善や薬に頼らない排便生活を手に入れる事ができます。
以前に中医学的な便秘の分類と、それに対応する漢方薬のブログを書いていますので、よろしければご参考にしてみてください。
今回の症例はこのように改善した
相談した後に、今回に相談者から得た情報や状態を整理すると以下になります。
- 4年前に便秘になりお腹が痛むので病院にいくと腸閉塞と診断を受けた
- 夏場に酸化マグネシウムと飲むと必ず水様便と便秘を繰り返すが、今年は3月であるがすでにその状態
- 大便はコロコロになる事が多い
- 前腕の皮膚が乾燥している
- 食欲はある
- 便秘の事は常に気にしているので、火をとおした野菜を中心に食物繊維はしっかり摂取
- 肩こりがひどく定期的に整体に通っている
- 胸脇苦満など腹部に異常な緊張はなくやわらかい
- 睡眠の状態は良いが、よく眠っているのに眠たい
- だるくなりやすい
- 口内の異常な乾燥感はみられない
このような感しなので、全体的に弱りが感じられます。
舌を見てみると、うっすらと白い苔がついており、舌全体は弱々しくぶよっとしている感じです。
訴える症状と舌の状態から、虚秘である事は間違いないように思えます。
さきほど書きましたように虚秘の原因には気虚・血虚・陽虚がありますので、相談で得た情報から考えていきます。
冷えが原因である陽虚であるのであれば、冬場に悪化してもおかしくはないし、冷たいものを飲んでもお腹を壊したり便秘がひどくなる事はないとので、陽虚は選択肢から外しました。
大便の状態はコロコロになる事や前腕の皮膚の乾燥から、血虚からの腸管の乾燥による便秘の可能性も考えられますが、体型や雰囲気・舌の状態から気虚からの津液の停滞を感じられるので、今回は気虚からおこる便秘と判断して、下痢を起こしている事と夏に悪化する事から湿熱の存在を考慮して、生姜の入っていない参苓白朮散と便秘薬の長期服薬により腸内環境のも乱れを考慮して、野草菜果をまずは8日分飲んでもらう事にしました。
参苓白朮散を飲んで1週間後
下痢は止まり、酸化マグネシウムも4日間飲まずに大便出ているとの事。
すぐに効果が出ましたので相談者も喜び私も安心しましたが、今回の症例は途中で迷宮いりして相談者とともに四苦八苦する事になります。
この後1ヶ月ほどは酸化マグネシウムは飲まずに順調に1日1回の排便があり、相談者から満足のお声をいただいていたのですが、5月の中旬ごろに急に出なくなりました。
参苓白朮散を飲んで1ヶ月後
4日間出ないので、酸化マグネシウムを再開するとやはり下痢になるとの事。
色々と考えた結果、大便のコロコや皮膚の乾燥から、気虚が原因ではなくて血虚の方かと考え直して、加味逍遙散をメインに少量の大柴胡湯でお腹の緊張をゆるめてみる事にしました。
加味逍遙散を便秘に使うのは、江戸時代の漢方医である浅田宗伯が『勿誤薬室方函口訣』において
「また老医の伝に、大便秘訣して朝・夕快く通ぜぬというもの、何病に限らずに此の方を用ゆれば大便快通して諸病も治すという」
という口訣があり、処方構成をみても血虚に対して当帰・芍薬で補血&潤腸して、津液のめぐりの悪さには白朮・茯苓で脾気を補います。
さらに柴胡・薄荷・芍薬で便秘によるあせりからくる自律神経の乱れを改善して、腸の蠕動運動を高める事を狙えます。
逍遥散でなく牡丹皮と山梔子の入った加味逍遙散を口訣にあげているのは、このふたつの生薬の刺激がゆるやかな瀉下作用がある事が考えられます。
大柴胡湯を少量加えたのは、相談者は過去の腸閉塞の経験からとにかく大便がでないと不安になってしまうので、まずは排泄を促して落ちつたいらあとで抜く予定です。
加味逍遙散を飲んで1週間後
加味逍遙散の反応は、毎日でずに出ても少量で残便感があるとの事。
漢方薬が病態にフィットしていないようなので、再度考える事にしました。
便秘の原因は気虚で間違いないが、参苓白朮散では弱いみたいなので、柴胡・升麻・黄耆の昇陽効果で弛緩した蠕動運動が弱くなった腸管を動かし、当帰の潤腸効果で潤いをあたえる目的で、今回は補中益気湯を飲んでもらう事にしました。もし大便の出が悪い時には潤腸目的と、少し腸管に刺激与えるために麻子仁丸を少量で飲んでもらいお渡ししておきました。
補中益気湯を飲んで1週間後
補中益気湯だけで、毎日出ているとの事。さらに最近は以前より身体のだるさもなく過ごせているとの事。
間違いなく補中益気湯はドンピシャなので、下痢の事は気にせずにはじめから補中益気湯を選んでおけばと思い反省しましたが、ひとまずひと安心です。
その後、1ヶ月間は潤腸の心地よい排便状態が続いていましたが、夏に近づくにつれてまた出なくなりました。
出なくなったので、麻子仁丸を適量を加えて飲んでもらう事にしましたが、うまく出る時と出ない時がありスムーズでありません。
そのような事をしているうちに、1ヶ月ぐらい経過してしまいました。
1週間おきにお身体の状態をお聞きしていると、補中益気湯を飲みはじめた時にような元気さがなく身体がだるさが出てきているとの事。
この事から補中益気湯はあっているのだが、「特に今年は猛暑なので気温の上昇により体力が奪われて、補中益気湯の効果が出にくくなっているのかも?」と考えて、補中益気湯は変えずに飲んでもらう量を増やしてもらいました。
すると補中益気湯を飲み始めた時のように、元気がもどり排便の方も毎日出てスムーズになりました。
これでもう大丈夫なので、あとは気温の低下とともに大便の状態をみながら、補中益気湯を量を減らしていくだけです。
今回の症例を振り返って
今回の件は、はじめの下痢にひっぱられて参苓白朮散を選び効果が出てしまったばかりに、途中で血虚による便秘と判断を変えて漢方薬の方向性を変えてしまいましたが、弁証論治を誤るとやはり効果が出ません。
さらに気虚による便秘の場合は効果をあせり瀉下作用のある大黄を加えても効果が出ないばかりか、今回のように相談者をかえって不快にさせてしまいます。
補中益気湯で一的的に効果が出た事から弁証論治が正解でも、今回のように外的環境が代わり漢方薬の量が足りなければ効果が出なくなる事がありますので、今回の症例は手間取って相談者にご迷惑をおかけしてしまいました。今回の経験をもとにさらに漢方の腕を磨き、できる限り正確な判断で相談者のお悩みを解決していきたいと思います。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。