慢性上咽頭炎からくる頭痛に漢方薬が効果的であった症例
2023年11月24日
頭痛が治らない
40代女性
1年前から頭痛がひどくなり、ペインクリニック・脳神経外科・耳鼻咽喉科・眼科・大学病院などで検査をして治療をしてもらうも頭痛は大きく改善する事はなく、心療内科でエビリファイ・レキソタン・デパケン・マイスリーを出されて、神経を和らげる事によって日々の生活を送られているとの事でした。
ただ耳鼻咽喉科でBスポット療法を40回ぐらいは受けており、その後少しだけ頭痛が軽減したので慢性上咽頭炎の治療をすると治るかもしれないと思い、当店に来店されました。
上咽頭付近の炎症から頭痛が起こっている可能生が高そうですが、念入りにお身体の状態や体質などをお聞きして頭痛の原因が他から起こっている可能生も考えていきます。
慢性上咽頭炎の診断と原因
上咽頭は鼻の奥にあり、外から空気を取り入れる時に必ず通るので、ウイルス・花粉・ハウスダスト・黄砂・PM2.5や空気の乾燥と冷気などの影響を受けやすく、炎症が起こりやすい場所になっています。
上咽頭炎の診断
内視鏡(ファイバースコープ)で上咽頭に炎症の存在を確認して、咽頭痛・のどの違和感・後鼻漏・鼻閉・痰・せきなどの不快な症状がある場合に上咽頭炎と診断されます。
上咽頭炎の原因
ウイルス・花粉・ハウスダスト・黄砂・PM2.5や空気の乾燥と冷気などにより炎症の発生と持続。
また鼻腔・副鼻腔内・上咽頭の粘膜は同じ空間内で続いていますので、特に副鼻腔内に炎症おこったり、炎症が残存している場合には上咽頭に炎症が再発する場合もあります。またその逆もあり上咽頭の炎症が副鼻腔の炎症を引き起こす事もあります。
上咽頭炎の治療
耳鼻咽喉科で行うBスポット療法が効果的です。
Bスポット療法の効果は以下のようになっています。
- ①亜鉛による収れん殺菌作用により、ウイルスや細菌を殺し炎症を抑える
- ②綿棒による物理的刺激による瀉血により、たまった炎症物質や老廃物を排出する
- ③迷走神経への刺激作用により、免疫疾患の炎症を抑える
Bスポット療法は綿棒が届く範囲の炎症には強力に作用しますが、綿棒が届かない場所に炎症が残っていたり、副鼻腔内に炎症がある場合は、炎症が完全に鎮まりにくく再発してしまうという欠点があります。
漢方薬でどうやって治療するのか
慢性上咽頭炎の実際の相談の現場では、上咽頭〜中咽頭や副鼻腔などに痛みを訴えない方もいます。この痛みを訴えないタイプの方はお身体全体や体質面を考えて治療する必要がありますが、今回のように強烈に痛みが出ている場合は、他の所見はあまり気にする必要はなく、まずは上咽頭や副鼻腔を含めて頭部〜上半身の炎症を鎮める事です。
ただし漢方薬が効果が発揮するためには、必ず胃腸で吸収する必要がありますので、胃腸の虚弱さには注意を払う必要があります。
漢方薬はBスポット療法のように局所の炎症を急激に鎮める事はできませんが、上咽頭の綿棒が届かない場所や副鼻腔や鼻腔内の炎症も一緒に鎮める事ができ、また炎症が起こりにくい体質に改善する事ができます。
今回の症例はこのように改善した
相談者の訴えは、以下のようになっています。
- 痛む場所は左目奥と鼻の奥が重なったところで梅干し大の大きさに痛みがある
- 非ステロイド系の頭痛薬は効果がない
- 鼻うがいすると左だけ緑黄色のゼリー状の膿が毎日でる
- 常に鼻の奥に後鼻漏がへばりついている
- 1年間痛みに悩まされている
- Bスポット療法を30回受けて少しはマシになるが痛みは強い
第一印象として、特に虚弱な感じはなく食欲もあり痛みのつらさに耐えながら仕事は休まずのフルで働かれています。
舌はやや大きめで、中央から奥にかけてねっとりした白い苔が付着して、舌の色は少し暗い紫色になっていました。
Bスポット療法で少しだけ頭痛が軽減した事、痛む場所の方の鼻の方から鼻うがいをすると毎日膿が出る事・後鼻漏の存在がある事から、迷う事なくまずは上咽頭の炎症を漢方薬で鎮めにいき、上咽頭周辺の微細な炎症までしっかり鎮める事によって、炎症が起こりやすい体質を改善していきます。
漢方薬の効果の判定としましては頭痛の軽減はもちろんですが、膿の排出頻度・後鼻漏の減少で判断できます。
痛みが長期にわたり、心療内科系のお薬を飲んでいる事や、みぞおちから右肋骨下が硬くなりまったく指が入らない事から、肝気鬱結(かんきうっけつ)に対して効果のある四逆散(柴胡・枳実・芍薬・甘草)と、慢性炎症を改善するのに効果的な温清飲(当帰・芍薬・川芎・地黄・黄連・黄芩・黄柏・山梔子)の方意が入った荊芥連翹湯をベースにして、痛む場所が一定で強い事や舌が紫色になっている事などを考えて瘀血(おけつ)をとる目的で桂枝茯苓丸を一緒に飲んでもらう事しました。
漢方薬を飲んで1週間後
特に変化がなく、少しだけ痛みがましかな?というぐらいでした。後鼻漏や膿の状態も変化がありませんでした。
荊芥連翹湯と桂枝茯苓丸をそのままにして、排膿をうながす目的で薏苡仁(ヨクイニン)を追加で飲んでもらう事にしました。
漢方薬を飲んで2週間後
鼻うがいする時に出る膿の量が軽減して、後鼻漏のへばりつきも少し軽くなったようです。
しかしかんじんの頭痛は梅干し大のエリアから卵ぐらいの大きさに広がり鼻奥から額かけて痛みが強くなってきたとの事です。気温の上昇のせいかはわかりませんが、だるさと顔ほほてり・口の中に熱がこもったような感じも出現しました。
膿や後鼻漏の不快症状は軽減してるので、漢方薬の方向性があっているみたいですが、漢方薬に含まれる生薬が何かが熱を生んでしまい、頭痛を悪くしている可能生があります。
荊芥連翹湯の中の川芎や、桂枝茯苓丸の中の桂皮が怪しいので、まずは桂枝茯苓丸を温める弊害の少ない雲南片玉金(田七人参・鬱金)に変更して、さらに清熱作用と排膿作用を高めるために薏苡仁を桔梗石膏に変更して様子をみてもらう事にしました。
漢方薬を飲んで3週間後
今回の漢方薬はうまく上咽頭周辺の炎症を鎮める事ができたようで、ご相談された時の痛みが10としたら3までいっきに減少したとの事でした。鼻うがいする時に膿の量もさらに減少して、日によってはほとんど出ないぐらいまで減少しました。
間違いなく漢方薬は上咽頭周辺の炎症を鎮める事ができていますので、ご相談のペースを2週間ペースに切り替えて継続してもらう事にしました。
漢方薬を飲んで3ヶ月後
荊芥連翹湯・雲南片玉金・桔梗石膏を継続してもらい、はじめのご相談から3ヶ月たつ頃までには、頭痛がどんどん気にならなくなり・膿や後鼻漏のほぼなくなっていったので、漢方薬を飲み忘れる事も出てきて1日2回などのペースになりながらも、最終的に頭痛と膿はなくなり漢方薬の服用は終了いたしました。
今回のご相談は途中で頭痛が悪化して少し焦りましたが、ご相談者が信じてついてきてくれたおかげて、うまく治す事ができて良かったです。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。