掌蹠膿疱症を伴う慢性上咽頭炎に漢方薬が効果的であった症例
2025年01月21日
慢性的に続く上咽頭の炎症と掌蹠膿疱症が治らない
今回のブログは上咽頭の炎症は漢方薬で治ったが、掌蹠膿疱症が治らずに苦戦した後になんとか治せた症例です。
ご来店の4ヶ月前にコロナに感染したのち、上咽頭にヒリヒリとした痛みとかぜをひいたような倦怠感が続いているとの事でご相談に来られました。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)に関してはコロナ感染前からあるが、コロナ感染時には皮膚の状態がジュクジュクした後に乾燥がひどくなりとても悪くなったとの事です。
さらに1年ほど前から鬱っぽくて、メンタルの不調もあるとの事でした。
掌蹠膿疱症とは、両側の手掌と足底に無菌性の膿疱が多発する疾患です。
明らかな原因はわかっていませんが、虫歯・扁桃炎・上咽頭炎などの病巣感染や歯科で治療した銀歯や詰め物などの金属アレルギー・喫煙などが関係しているといわれています。
上咽頭炎の症例は多く経験していますが、掌蹠膿疱症を伴う慢性上咽頭炎は今回がはじめてで、ネットや書籍の情報では慢性上咽頭炎を治せば掌蹠膿疱症も治るという事が書かれています。
相談者は上咽頭炎からくるのどの不快症状があるのですから、まずは上咽頭の炎症を鎮め、病巣を治す事によって掌蹠膿疱症とメンタルの不調が改善するかをみてみるのが正攻法でしょう。
上咽頭の炎症を治す漢方薬を選ぶのには
- 上咽頭の炎症の強さ
- 粘膜の乾燥状態による陰の損傷ぐあい
- 胃腸の弱さ
上記の3点の状態を考えて決定します。
漢方相談では全体的は雰囲気や体格・顔や舌の状態をみてお悩みの症状や色々なお話しを聞いた上で、いらない情報を捨てて整理する必要があります。
- 20代 男性
- 体格は骨格が太く筋肉量もありじょうぶな印象
- のどにやや乾燥がありひりひりと痛む
- 背中がうっすら寒くずっとかぜをひいている感覚
- 両手の平に嚢胞ができその後にバリバリに乾燥する(特に右手がひどい)
- メンタルの不調
- 睡眠の質が悪い
- 食欲はある
- お腹に力が入りやすくて緊張がとれない(触られるの嫌)
- 胃腸は弱くなく便秘傾向
- 舌は適度なやわらかさで、舌色は淡紅色で、舌苔はやや薄黄で多い
これらの所見から、緊張をやわらげて上咽頭の炎症を鎮める漢方薬をまずは10日間飲んでもらいました。
「のどの痛みに少し効果があるかな?」という感じで漢方薬の反応は悪くないが、手の平の患部から膿っぽいものが出てきたのと悪夢をみるようになったとの事。
上咽頭は改善傾向がみられるので、掌蹠膿疱症の膿や悪夢は深層にあった毒が出てきたものと解釈して、そのまま同じ漢方薬を飲んでもらう事にしました。
漢方薬を飲んでさらに10日後
のどの痛みは、さらに改善して悪夢が減り睡眠の質がよくなりお腹の緊張もとれてきました。
しかしのど奥の乾燥が気になり、膿栓(のうせん)が気になるとの事なので、炎症をしずめて粘膜を潤す漢方薬を追加で飲んでもらいました。
漢方薬を飲んでさらに30日後
のどの症状は気にならなくなり、それに伴うかぜの症状のような背中のうすら寒さと膿栓もなくなりました。
しかし掌蹠膿疱症の状態はまったく変わらないので、上咽頭の治療は終了して掌蹠膿疱症に治療を移すことにしました。
上咽頭への漢方薬は終了して掌蹠膿疱症に対しての漢方薬に切り替える
しかし、ここから苦戦して竜胆瀉肝湯や温清飲・茵蔯蒿湯などを使用したりしましたが改善せずに、防風通聖散を飲んでもらった時に嚢胞が減り乾燥する事もなくなり、右の手のひらの一部の皮膚の以外はきれいになりました。
以前は手の消毒のために消毒用エタノールをスプレーすると痛くて仕方がないといった風でしたが、強い痛みを感じる事なく少ししみるかなという状態で消毒できるようになりました。
私の心の中では「もう大丈夫」と思い、しばらく続けてもらいましたが、もう少しが治らないという状態が続きました。
漢方薬を飲んでいる時に、かぜをひいて掌蹠膿疱症が悪化
防風通聖散を飲んでもらっている最中に相談者が2回かぜをひいてしまい、そのたびに掌蹠膿疱症を一気に悪化する事になりました。
「上咽頭の炎症が鎮まっても掌蹠膿疱症があまり改善しなかったのに、悪化する時は急激に悪くなるなんて…」と心の中で落ち込みましたが、相談者はもっと落ち込み悩んでいる事を思うと、とにかく目の前の問題を解決するのみです。
かぜをひいた2回ともに慢性上咽頭炎ではなく急性炎症ですので、前回に処方した慢性上咽頭炎の漢方薬ではなくて、配合生薬が軽い漢方薬で患部の湿をのぞき血流を良くして炎症を鎮めました。
かぜの症状とのどの痛みなどがとれて、掌蹠膿疱症は以前の状態に戻りました。
しかし手のひらの嚢胞や乾燥状態は防風通聖散を使っていた時にようにまでは戻りません。
でも防風通聖散で押しても完治までいかなかったので、再度考えてみる事にしました。
・かぜをひきやすい
・以前よりメンタルの状態が良いが調子が悪い時もある。
・すぐに眠たくなり、休みの日は10時間以上眠る時もある
胃腸のじょうぶさ・排便状況・飲食状況・定期的に運動する事を好む・体格・お腹・脈などから、この方の掌蹠膿疱症の主原因は湿熱と考えて、邪気を除去するために比較的強めの漢方薬を使用していましたが、思いのほか虚の状態、いわゆる身体が弱っていると考え直しました。
よって漢方薬は加味逍遙散を飲んでもらい、皮膚の状態をみながら補血する漢方薬を少し加えて様子をみてみると、以前の防風通聖散の時よりもさらに良い状態になりました。
皮膚の状態がきれいな状態になる事でジャンクな食べ物や甘いものを食べ過ぎると悪化する事がクリアにわかるようになり、便秘傾向もあるので大黄の入った漢方薬を加える事で皮膚の状態はさらに安定してかゆみが起こる事のないきれいな皮膚になりました。
念の為にこれらの漢方薬を1日1回の服用で1ヶ月飲んでもらい、漢方薬の服用は中止としました。
苦戦した掌蹠膿疱症も治ったといって良いでしょう。→ひと安心です
今回の症例を振り返って
掌蹠膿疱症の原因のひとつとして、上咽頭の慢性炎症をあげられていますが、今回の症例のように上咽頭の炎症以外にもさらに別の原因が重複している事もあるという事です。
そしてその場合は上咽頭の炎症を鎮めるだけでは掌蹠膿疱症は治りません。
もしEAT(Bスポット療法)を受けて掌蹠膿疱症がある程度は改善するが、治りきらないという方は、全身状態を整えて炎症を鎮める事ができる漢方薬を治療の選択肢に入れてみるのが良いでしょう。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。