慢性上咽頭炎に温める性質が強い附子理中湯が効果的であった症例
2021年08月11日

今回は、附子という温める性質が強い生薬が入った漢方薬で慢性上咽頭炎が良くなった症例です。
50代女性
5年前にかぜをひいた後に、発熱とのどの痛みがおこった後に以下の症状が出現しました。
- 常にのどの腫れぼったさがある
- 後鼻漏
- 寝起きに痰がよく出る
- 倦怠感(身体がだるい事が多い)
Bスポット療法(EAT)を数十回受けて、のどのはれぼったさと倦怠感が少しはましになりましたが、上記の症状が残り、漢方薬で少しでも楽になるのならと、ご相談になられました。
鼻水は痰の状態を聞くと、黄色く粘ついたものが出る事が多いとの事でした。
顔がのぼせる事が多く過去に温経湯や桂枝茯苓丸などを漢方薬を飲んだ時に、顔をほてりがまして不快で痰や鼻水が粘っこくなる印象があるとの事でした。
しかし舌の色は赤みが少ない淡い色で舌苔もほとんど付着しておらず、夏でもくつ下を着用したり、口の乾きはなく、温かい飲みものを好むとの事でした。(むしろ冷たい飲み物は嫌い)
これらの事から、体質的には身体の冷えがあるのは問診の内容から明らかではありますが、温経湯や桂枝茯苓丸の反応が気になります。
- 顔がほてりやすい
- ほおに赤みがかかっている
- 温かい飲み物を好む
- 夏でもくつ下を着用している
などから
上熱下寒(じょうねつかかん)上半身はほてるが下半身が冷える状態であり、鼻水や痰の状態から滋陰薬の入った温経湯などは効きそうなのですが、効果がなく不快であるとの事でした。
冷えのぼせを指標で桂皮の入った漢方薬を使うのは怖いので、冷え症状は無視する事にして辛夷清肺湯を恐る恐る1週間だけ、お客様に同意の上で飲んでもらう事にしました。
辛夷清肺湯を飲んでもらい1週間
これが全然ダメでした。
辛夷清肺湯を飲んで2,3日後に胃もたれが発生し食欲が減退して、倦怠感も増し背中がうすら寒くてかぜを引いたようになりました。
お客様のこの報告を聞いた時には「しまったっ!」と思い、謝りました。
温経湯や桂枝茯苓丸で悪化の反応を気にして、全体症状の訴えを一度捨てて、裏をかき局部の症状に焦点をあててみましたが、これが大失敗でした。
漢方相談をしていて、訴える症状や舌から体質を考えて漢方薬を3,4ヶ月飲んでもらっても、お悩みの症状が全然動かない時があります。
こういう場合に標治(ひょうち)に絞って治療した場合に、すぐに効果を発揮する場合がたまにあります。
標(ひょう)
「標」とは表面的・根本でないという意味。これは本と相対する意味で用いられる病態把握のための概念である。
中医学では標と本という2つの概念を用い、疾病のメカニズムを分類整理し、その「本質」と、表層的な「現象」を見極めていく。すなわち、疾病においては「本質」を主とみなし、表層的「現象」を従とみなす。
『中医基本用語辞典』
このように難しく言葉の定義をされていますが、今回の場合は
- のどの腫れぼったさ
- 顔がほてりやすく、温経湯や桂枝茯苓丸で悪化する
- 痰や鼻水は黄色く粘ついている
これらの症状が「標」であり
- 足が冷えやすく、夏でもくつ下をはいている
- 温かい飲み物を好む
- 倦怠感(身体がだるい)
これらが「本」である
慢性病の場合は標と本を同時に治療する場合が多いのですが、標のみに治療にしぼらないと症状が改善しない場合も時にはあります。
ここらへんが、実際の臨床では理論どおりにいかないところですね。
いろいろとうんちくをたれて、話を脱線しましたが、今回は結局はその方針がうまくいきませんでした(苦笑。
辛夷清肺湯の反応を反省する
辛夷清肺湯は鼻や肺の実熱と虚熱が入り混じったものに、使用する方剤です。
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)『外科正宗』
麦門冬・石膏・知母・百合・黄芩・山梔子・辛夷・枇杷葉・升麻
此の方は脳漏鼻淵(副鼻腔炎など膿汁を排出する鼻疾患)、鼻中瘜肉、或いは鼻不聞香臭等の症、凡て熱毒に属する者に用いて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎辛夷大黄、或いは頭風神方て化毒丸を兼用して治すれども、熱毒あり疼痛甚だしき者は此の方に非ざれば治すこと能わず。
『勿誤薬室方函口訣』
浅田宗伯先生も生薬構成通り、熱毒に使いなさいと言ってます。
この方の頭部以外の自覚症状と舌からは明らかに裏寒(内側が冷えている)を示しているのと、熱毒を冷ます漢方薬を胃や腎にこたえて胃もたれや倦怠感と寒気が出たのは確実です。
すぐに服用を中止してもらい、顔のほてりが出るのが心配でしたら桂皮の入っていない熱を裏に固める目的で、附子理中湯に変更しました。
附子理中湯を飲んでもらい1ヶ月
のどの腫れぼったさや粘ついた痰や鼻水には、それほど変化がありませんでした。
辛夷清肺湯のたった3日飲んだだけで、胃もたれだけでなく、背中が寒く感じた事から、冷えは腎まで及んでそうですので、人参湯ではなく附子理中湯を飲んでもらう事にしました。
顔のほてりや鼻や痰の粘り気が増すのを心配しましたが、桂皮で出たような反応は出ずに飲む事ができました。
のどの腫れぼったさや、痰や鼻水に改善はなかったですが1ヶ月内服するころには、倦怠感は少しましになり、飲み物も温かいものではなく、常温や少し冷たい飲みものをおいしく感じるようになってきました。
附子理中湯を飲んでもらい3ヶ月
3ヶ月継続して飲むまで、のどの腫れぼったさや鼻水や痰はほとんど変化はなかったのですが、私の中では倦怠感がましになって、日々の生活がすごしやすくなってきましたので、漢方薬を変更せずそのまま押し通しました。
そして3ヶ月ぐらい立つ頃に、のどの腫れぼったさが改善しはじめて、鼻水や痰が減少して後鼻漏を感じる事が少なくなってきました。
そしてのどの腫れぼったさは消失して、後鼻漏もほとんど感じる事がなくなりましたので、附子理中湯を人参湯に変更して様子をみています。これから秋、冬の乾燥と冷えに注意を払いながら。
正直、途中に漢方薬を変更しようかと迷いましたが、変更せずにいけたのも、お客様が信じて漢方薬を継続してくれたからです。
漢方相談で短期間で効果が出る場合は良いですが、時間がかかる場合には、お客様の相性は大切だなと改めて思った症例です。

大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。