補中益気湯や六君子湯・十全大補湯が効かない慢性疲労症候群(CFS)
2022年01月17日

新型コロナやかぜにかかった後に慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)になられた方のご相談にのっていると、元気をつける漢方薬(補中益気湯・六君子湯・十全大補湯)を飲んでも良くならない方がいらっしゃいます。
なぜ十全大補湯や六君子湯・補中益気湯が効かないのか
漢方薬がその方の体質にあっていないからです。
あたりまえの事なのですが、漢方薬があわない場合は効果を実感できなかったり悪化する場合もあります。
半年ぐらい飲むと効いてくるかと思って飲んでいる方もいますが、2,3ヶ月飲んで少しも効果を感じていない場合は6ヶ月後にいきなりすべての症状がとれるという事はないです。
効果がある時は、日がたつにつれてお悩みの症状の辛さがやわらいでいきます。
補中益気湯の慢性疲労症候群への臨床効果
『中医臨床』167号に補中益気湯の慢性疲労症候に対しての効果がのっていましたので、抜粋します。
・慢性疲労症候群29症例に対して補中益気湯を8週間〜12週間投与した結果。
10例⇒顕著に改善
12例⇒少し改善
15例⇒不変
2例⇒悪化
・慢性疲労症候群22症例に対して補中益気湯12週間投与した結果。
1例⇒顕著に改善
8例⇒少し改善
12例⇒不変
1例⇒悪化
補中益気湯は、症状別の効果ではbrain fog(思考力低下、集中力低下)や羞明を改善する効果が高い反面、感染徴候(頸部リンパ節腫脹)に対して効果が低い事、生活機能に及ぼす効果では、PSを数段階改善する効果が期待できるものの、重症症例に対する効果は限定的である事が示唆される。
『中医臨床』167号
上記の補中益気湯はブレインフォグ(思考力低下、集中力低下)には効果があるが、感染徴候(頸部リンパ節腫脹)に対して効果が低いというところに答えがありそうですね。
慢性疲労症候群の症状
- 疲労倦怠感
- 集中力の低下
- 食欲不振
- 頭痛
- 関節や筋肉に痛み
- のどの痛みやはれ
- 腹痛
- 抑うつ
などの症状が出てきます。
その中でも疲労倦怠感はほとんどの方がうったえ、症状がひどい方は仕事を休んでしまいます。
この疲労倦怠感がある事から、漢方薬では気虚(ききょ)と判断してしまうために十全大補湯や補中益気湯・六君子湯が処方されるのだと思います。
気虚とは
では気虚とはどんな状態でしょうか?
『中医基本用語辞典』からひろってみましょう。
生体の元気が不足して現れる病証を指す。
症状としてはめまい・目が眩む・息切れ・話をしたがらない・倦怠感・自汗・活動すると症状が激しくなる・舌質淡白・脈虚無力などがみられる。多くは元気が虚損し、各臓腑・器官への温養が不足して機能が衰退することによって起る。治法は補益元気、処方は四君子湯を用いる。
『中医基本用語辞典』
いかにも生活するのにしんどそうな雰囲気ですよね。
疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)のほとんどの方が疲労倦怠感をうったえる事から、気虚と判断して黄耆・人参・白朮・茯苓・甘草という生薬の入った漢方薬を選ぶ事になります。
もちろん効果がある方もいらっしゃいますが、一部の方には効果が出ないもしくは漢方薬を飲む事によって、胃腸の調子やのどの痛みが悪くなったり、身体がほてったり頭痛、せきが出たりする方もいらっしゃります。
なぜ効く人と効かない人がいるのでしょうか?
その理由をあげていきたいと思います。
邪正相争(せいじゃそうそう)の邪気が問題
漢方薬を飲む目的は、乱れた身体のバランスを整える事です。
人間は色々なもののバランスをシーソーのようにとって生きています。
日々、バランスが揺れ動く中でどちらかに傾きすぎなければ不快な症状が出にくく快適な生活が送れます。
漢方薬はその傾きすぎた状態を整えるために使用します。
今回は正気と邪気を例にして考えてみましょう。
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)はコロナやかぜなどの感染症にかかった後におこる事から
正気⇒その人の身体の力
邪気⇒ウイルスや炎症
と考えてもらえれば、イメージがつきやすいかと思います。
身体の力を高める漢方薬(または生薬)を使うか、ウイルスや炎症をやっつけたり鎮めたりする漢方薬を使うかを考えなければなりません。
*ここで注意する必要があるのは、漢方薬はバランスをとるのでどちらかに力を加えると別の方にも変化がおこってしまうという事です。(シーソーをイメージしてください。)
身体の力を高める漢方薬はウイルスの力を高めたり炎症を悪化させたりする可能性があり、ウイルスや炎症を鎮める漢方薬や身体の力を弱めてしまったりする可能性があるというふうに認識してもらえれば良いです。
中医学の考えでは、その方の体質と病の状態により以下の考えをもとに治療していきます。
扶正祛邪(ふせいきょじゃ)
弱った身体に力をつける事によって、病を治していく方法。
祛邪復正(きょじゃふくせい)
病の原因に対して攻撃する事によって、身体の力を元通りにする方法。
攻補兼施(こうほけんし)
弱った身体を立て直しつつも、病の原因を攻撃する方法。
このように漢方薬で病を治療する時は、正気と邪気のバランスを考えてその人の体質と状態により治療方法を考えます。
邪気が強いのに補う薬を多く使うと悪化する
補中益気湯や六君子湯、十全大補湯は扶正祛邪(ふせいきょじゃ)にあたりますので、祛邪復正や攻補兼施の方法をとらなければならない時に使用していまうと、邪気の勢いをつけて、逆に症状を悪化させてしまう事があります。
たまにある症例ですが、補中益気湯や十全大補湯・六君子湯を飲んでも顕著な効果を感じられずに体調が悪いままな方がいらっしゃいます。
そのような方の舌をみてみますと、舌苔が厚めに着色して黄色くなっている事があります。
舌苔が厚く黄色く着色している場合に湿熱(しつねつ)・熱痰(ねつたん)・食積(食積)などの邪気が存在する可能性が考えられますので、あまり熱を助けて水をたくわえるような漢方薬(生薬)は控えなければなりません。
Twitterに書いたように、人参や甘草は水をたくわえる性質があり特に人参は温める作用もあるので、熱性の炎症をもっていて敏感な方は、症状を悪化させてしまう事もあります。
元気をつける生薬
水をたくわえる→人参・甘草
水をめぐらす→黄耆・白朮
「邪気はウイルスや炎症と考えてくださいと書いたのに湿熱・熱痰・食積が邪気?」と思っている方もいらっしゃると思います。
感染症にかかった場合の直接の原因はウイルスやそれにともなう炎症だと考えてもらい、湿熱・熱痰・食積はその人の生活の乱れからくる体質的問題による間接的要因だと考えてもらえれば良いです。(日頃から食生活に気を配り、良質な睡眠をとり、適度な運動をしている方は病気にかかりにくいですよね。)
このような体質の方で、食欲がありのどの腫れや痛みなどの炎症症状が強い場合は、祛邪復正(きょじゃふくせい)の方法をとり邪気をとる漢方薬が良く、食欲がなく炎症が強い場合は攻補兼施(こうほけんし)でうまくバランスをとってあげる必要があります。
時期により治療方法を変える必要がある場合もある
コロナやかぜの感染後に慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)になる方の中には、慢性上咽頭炎や慢性扁桃炎・慢性副鼻腔炎をかかえていらっしゃる方がいます。
このような方で上咽頭や中咽頭・扁桃腺・副鼻腔などの腫れや痛みがある方の場合は、はじめは炎症を鎮める漢方薬を使い炎症が鎮まってきてから、身体の力を高める漢方薬に変えていく必要がある場合もあります。
治療段階により、上記の治療方法(扶正祛邪など)が変わっていきます。
このような場合は、はじめから終わりまで同じ漢方薬で治療する事が難しいです。
漢方薬で治療する場合は体質と状態を考える必要がある
漢方薬はその人の崩れたバランスを整える事により結果的に病を治療の方向に向けていくために、今回のように慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)だから、補中益気湯や十全大補湯・六君子湯で固定してすべての方が良くなるのは厳しいです。
もちろん気虚を兼ねている方が多いので一部の人には効果がありますが、残念ながら効果が出ない方がいる現実があります。
効果が出ない方は、しっかりと体質と状態を考えて治療してくれる専門家に相談してみるのが良いでしょう。

大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。