パニック障害を伴う慢性上咽頭炎による後鼻漏でお悩みの方に漢方薬(苓桂味甘湯)が効果的であった症例
2022年08月25日
50代の女性の相談者
訴える症状
- 後鼻漏
- 慢性的なのどの痛み
- パニック症状が出る、急に脈拍があがる(その時にめまい)
- たまに顔に熱感がでる
- 食欲がない
- 鎖骨や背中の痛み
- 両手のしびれ
- 掌蹠膿疱症
- 膝下のむくみとだるさ
- 腰痛
- お腹のはり
- 小便の出が悪い
- 不眠症
など頭部から下半身まで不快な症状は上下にわたっていますが、このような事は漢方相談ではよくある事です。
このような時は、一番に不快な症状に的をしぼって治療していくのが良いです。
一番不快な症状とつながっている部分は一緒に治っていくし、つながっていない部分は治っていきません。
そして相談者からの依頼は「Bスポット治療(EAT)をしているが、後鼻漏が減らない」との事でしたので、後鼻漏を中心にして他の症状が考えていきます。
後鼻漏の質を考える
後鼻漏の質を聞いて、なぜそのようになっているかを考える事は大切です。
後鼻漏の質がさらさらとして、量が多いのか?
後鼻漏の質が粘りつきが強くて、量が少ないのか?
この情報から、不快症状がおこっている場所が冷えているのか・熱がこもっているのかを考えていきます。
身体全体が冷えていいたり、手足が冷えている場合は、実際にさわったり、聞くとわかりますが、身体の内側になる粘膜上の局部の冷えや熱は、本人に聞いてもわかりくいものです。
だから実際に存在している体液(鼻水や痰)の質を聞く事によって、不快症状がおこっている場所の状態を考えていきます。
- 後鼻漏がさらさらしている=冷え
- 後鼻漏が粘りつきが強い=熱
という考え方をする事が多いですが、例外もありますので注意する必要があります。
以前にツイートした内容を添付しておきますので、よろしければご参考にしてください。
全体初見との違和感が少ないのでしたら、まずはお悩みの症状の部位の状態にあわせて漢方薬を飲んでもらうのが無難です。
しかし逆に悪化したり、継続して飲んでも症状が改善しない場合は、全体的な所見を見直して考える必要があります。
この方の場合は
- 後鼻漏の質は粘りけが強いが、量がとても多い
- 痰を排出するのに1日にティッシュを1箱以上使用する
- 食欲がなく食べる量がとても少ない
- たまに顔がほてる
- お腹から下半身は冷える
このように痰や鼻水の質だけを見ると、少し複雑ですよね。
そこで重要なのが、全体所見です。
頭部に熱の傾向があるが、お腹から下半身にかけては冷えの存在がある。(→冷えのぼせ傾向)
内服で漢方薬は効き目を発揮するためには、胃腸を通す必要がありますので、もし胃腸が冷えている状態の方に痰の粘りけと顔のほてりだけの情報をぬきとって、冷やす性質のある漢方薬を飲ませてしまいますと、後鼻漏を減らす事は難しくなります。
今回は苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)という漢方薬を飲んでもらう事にしました。
苓桂味甘湯について
苓桂味甘湯は苓桂剤と言われる茯苓(ぶくりょう)と桂皮(けいひ)という生薬の骨格からなりたっています。
茯苓と桂皮など、桂皮という生薬の入った漢方薬を使用する時には、日本の漢方家の考え方を参考にするのが良いです。
桂皮を使用する時は、気逆(きぎゃく)という状態の時に使われる事が多いです。
今でいう冷えのぼせで、足は冷えるが頭はのぼせるような状態ですね。
江戸時代の漢方家である吉益東洞の『薬徴』には、苓桂剤の骨格である生薬である茯苓と桂皮にについて以下のように書かれています。
茯苓
悸、および肉じゅん筋てきを主治するなり。
かたわた小便不利、頭眩、煩躁を治す。
『薬徴』
桂皮
衝逆を主治するなり。
かたわら、奔豚、頭痛、発熱、悪風、汗出で、身痛むを治す。
『薬徴』
そして苓桂味甘湯を、吉益東洞の『類集方広義』で見てみると以下のように書かれています。
苓桂味甘湯
心下悸し、上衝し、咳して急迫する者を治す
『類集方広義』
どうですか?
どのような状態の時に使用するのかが、わかりやすく書かれていますよね。
茯苓と桂皮を骨格とする苓桂剤は
特に『薬徴』の「心下動悸し上衝し・・・」というところが大切です。
つきあがってくるようなのぼせを鎮める桂皮の薬能と
ドキドキやピクピクするを鎮める茯苓の薬能があわさった感じが、うまく表現されていますよね。
後は、この茯苓と桂皮の骨格に生薬を加える事によって治せる範囲が広がったり、違った色合いが出ます。
苓桂味甘湯の場合は
茯苓・桂皮・五味子・甘草
なので、五味子(ごみし)と甘草(かんぞう)の生薬が加わりその薬能があわさる事になります。
「咳して急迫する者を治す」というところですね。
苓桂剤には
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
- 苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
- 苓桂味甘湯(りゅおけいみかんとう)
- 茯苓沢瀉湯(ぶくりょうたくしゃとう)
- 茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう)
- 五苓散(ごれいさん)
- 柴苓湯(さいれいとう)
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
などがあり、柴胡(さいこ)や黄芩(おうごん)という生薬が入っているくる柴苓湯や柴胡加竜骨牡蛎湯は違った色合いになってきますが、骨格としては茯苓と桂皮を持っていますので、相談者の状態をみていると同じ症状を訴えたり雰囲気を感じる事があります。
苓桂味甘湯を飲んで2週間
胸がつかえて食べれなかったご飯を少しづつ食べれるようになり、小便の出が良くなっているとの事です。
苓桂味甘湯で胃腸の動き良くして、停滞していた水を膀胱まで運びうまく排水できているようです。
食事が無理なく入るようになると、内臓はスムーズに動きはじめます。
後、頻繁におこっていたパニック症状も減ってきているようですが、後鼻漏の減少はあまりないようです。
でも確実に苓桂味甘湯が効いていいるので、そのまま継続してもらう事にしました。
苓桂味甘湯を飲んで2ヶ月
食欲・食事量ともに正常に戻り、パニック症状はおこらなくなりました。
後鼻漏はご相談前に比べて2割ぐらいを残すものの、かなり減少して1日にティッシュを1箱使うなどという事はなくなりました。
食欲がなく胃腸が弱っている状態が続いている方の後鼻漏は、胃腸をいわたるようような食生活やストレス発散の仕方を身につけてもらわなければ、完治までに時間がかかる事もあるため、引き続き苓桂味甘湯を飲んでもらいながら食生活にも気をつけてもらいました。
苓桂味甘湯を飲んで6ヶ月
飲食は正常・パニック症状もおこらず、後鼻漏はごくたまにで出るかな?ぐらいになったので、後鼻漏が出た時だけの頓服にきりかえてもらう事にしました。
生クリームや脂っこい食事などを食べすきた翌日には、胃もたれを感じ後鼻漏が出てくる事があるために、引き続き胃腸をいたわってもらうようにお願いしています。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。