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脾陰虚と胃陰虚について(4)

2016年05月27日

麦門冬湯《金匱要略》 (中医臨床のための方剤学抜粋〉
麦門冬15g・半夏4.5g・人参9g・甘草3g・粳米15g・大棗3g
[主治]
肺痿(肺陰不足)
・咳嗽・激しい咳き込み・痰がきれにく・喉の乾燥刺激感・口乾・舌質ば紅で乾燥・舌苔が少・脈が細
胃陰不足
・口渇・喉の乾燥・嘔吐・舌質ば紅・少苔・脈が細など

《金匱要略》
「大逆上気し、咽喉利せず、逆を止め気を下すは、麦門冬湯これを主る」
《張氏医通》
「これ胃中の津液乾枯し、虚火上炎の証なり。およそ肺病みて胃気あらばすなわち生き、胃気なくばすなわち死す、胃気は、肺の母気なり、故に竹葉石膏湯より方名のニ味を編除して、麦冬数倍を用い君となし、兼ねて参・草・粳米を持って肺母を滋し、水穀の精微をしてみな肺に上注するを得さしめれば、自然に沃沢して虞なし気清さず、肺隧に上溢し、津液流通の道を占据して然ると知るべし、これをもって半夏を培用し、さらに大棗を加えて通津滌飲を先となす。奥義はすべてここに在り。もし濁陰除かれば、津液は斂さず、日に潤肺生津の剤を用うるといえども、なんぞよく止逆下気の勣を建てんや。俗に半夏は性燥なるをもって用いざるは、殊に仲景の立法の旨を失す」

《張氏医通》の条文での麦門冬の働きは脾胃の働きが弱くなったことによる、咳嗽が起こる仕組みを示しており、 重要なのは麦門冬は肺胃を冷やしながら潤す作用なの、その逆の働きの作用をする脾・胃を温めながら乾燥させる半夏が入っている事でしょう。

今回は胃陰虚についての記載ですので、胃に話の焦点を絞りますが、 なぜ胃を潤すために麦門冬だけではなく半夏が必要なのかというのが重要なのです。

麦門冬湯の処方構成は麦門冬15g、半夏4.5gと麦門冬の量が半夏の3倍入っています。
このような反対に作用する生薬で構成する方剤は多くあり、これも中医学の根本となる陰陽の考え方からなのです。

私達の日常生活で、わかりやすく説明すると、例えば食事についてもそうで、二便をしっかり出さないと、摂取した食事から栄養をしっかり吸収できないし、呼吸についてもそうです。

排出と吸収の陰陽の原理ですね。

膨張と収縮や冷却と燃焼、濡潤と乾燥など色々な事がありますが、この原理がとても大切なのです。

もう一つの理由として、「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という言葉がありますが、これは脾は弱ると、飲食物を消化する能力が衰えて痰という物が発生しますよと言うことを表しているのですが、痰というものは体の臓器を潤す作用はなく、気血津液の通行を妨げる存在なので貯まれば、臓器間の気血津液の通行が妨げれて、ますます弱っていくという現象を引き起こします。

半夏の帰経は脾、胃なのでその部分の痰を温めながら乾燥させるという作用を持ち、胃の通常流れは下向きですが、その流れは逆になった時や滞った状態を改善する作用もあります。

そして、食事から摂取した栄養成分を各臓器に届ける役目の脾を助けるために人参や甘草、粳米、大棗が配合されており、二次的に胃の潤いを持たせるという作用があります。

結局は胃を潤すためには食事から摂取した栄養成分(水穀の精微)をきっちり胃の潤す成分に替え、しっかりその部分までも届かせなければ、いつまでたっても胃は潤わないという事になります。

以上の理由から麦門冬湯で胃陰虚を治療する時の病機の標は胃の乾燥状態ですが、病機の本は脾の虚した状態という事にあります。

よって脾が虚していない状態の方に麦門冬湯を投与しても、その時は多少は楽になるかもしれないが、いつまでたっても病機の根本改善には繋がらないという事になります。

続く…