後鼻漏は漢方薬で炎症を鎮めれば治る
2023年07月19日
後鼻漏でお悩みでこられる実際の漢方相談の現場では、胃腸の弱りから起こる後鼻漏と炎症が強い事によって起こる後鼻漏のふたつのタイプに分ける事ができます。
前回は胃腸の弱りから起こる後鼻漏のブログを書きましたので、今回は炎症が強い事によって起こる後鼻漏のブログを書いていきます。
炎症が強い事によって後鼻漏が起こる人の特徴
- 後鼻漏の質はねばり気がある
- 後鼻漏や痰がのどにへばりついて不快
- 鼻腔・副鼻腔・上咽頭・扁桃のどこかに痛み又は腫れ感がある
- 炎症が強かったり長引いている場合は乾燥感がある
- 咳が出る
- のどの痛みをともなうかぜをひきやすい
- かぜをひいた時のような倦怠感がある
- 頭痛・肩こり
- 食欲はある
- ブレインフォグやメンタルの不調がある方もいる
- 口臭や膿などのにおいがある方もいる
- 嗅覚減退や味覚障害がある方もいる
炎症が強い事によって後鼻漏が起こる人の舌の特徴
舌はおおまかな内臓の状態や冷え・熱・乾燥・湿潤の状態を現していますので、相談者が訴える症状とあわせて考えます。
舌でしたらご自身の舌と照らし合わせて確認できますので、よろしければご参考にしていただければと思います。
炎症が強い事によって起こる後鼻漏の人に多いの舌は、以下の3タイプの舌になっている事が多いです。
淡紅舌・薄白苔・やや乾燥
炎症の強さは下の2タイプに比べて強くなく、炎症が続いている期間も少ないので、舌や舌苔に顕著な変化がみられません。ただし炎症の存在がある事から舌がやや乾燥傾向であったり、痛む場所である副鼻腔・咽頭に乾燥感があります。
舌尖紅舌・薄黄苔・やや乾燥
舌尖部(ぜっせんぶ)が紅色になり、舌苔は白色から黄色に変化しています。舌尖部の紅色は胸〜頭部に熱がこもり抜けにくくなっている状態をあらわしています。
舌苔が黄色に変化しているのは、口から肛門までの中空器官内で熱が充満している時にあらわれます。
これらの事からひとつ前の舌の状態よりも熱の存在を多く感じるので、炎症が強い事が考えられます。
紅舌・少苔・乾燥
舌色の赤みが強く紅色になり、舌苔が減少して乾燥が強くなっています。
熱の存在位置が深くなり血脈内の存在比率が高くなっているのと、炎症が強い又は炎症がおこっている期間が長くなっているので、組織のうるおいが減り、上の二つの舌の状態より乾燥が顕著にあわれてきています。
乾燥が強くなるほど、後鼻漏の異物感やのどに対してのへばりつき感は増して、不快感は増します。
炎症が強い事によって後鼻漏が起こる仕組み
炎症が強い事によって後鼻漏が起こる流れは、以下のようになります。
かぜやコロナなどの感染症・副鼻腔炎・上咽頭炎・扁桃炎→炎症がとりきれず残る→肺の粛降宣発作用の異常→肺陰・胃陰の損傷→外からの邪気(ウイルス・ハウスダスト・・・など)を除く力の低下→正邪相争の長期化(慢性炎症・免疫異常)→鼻漏の質の変化による不快な症状→後鼻漏の発生
発病のきっかけは、ウイルスや細菌などの侵入と増殖から始まる場合がほとんどです。
その時にうまく免疫系が働いて、炎症を残さずにとりきってしまえれば問題はないのですが、炎症が残ってしまうと慢性副鼻腔炎・慢性上咽頭炎・慢性扁桃炎になり慢性的な炎症状態が続く事になります。
そうすると肺の粛降作用と宣発作用の働きが弱まってしまい、肺や胃の陰(うるおい)が損傷してしまったりします。
肺の粛降と宣発は中医学の生理になりますので、以下のご説明を参考してください。
肺は粛降を主る
『中医基本用語辞典』
「粛降」は清潔にする・下降するという意味。
「肺は粛降を主る」とは、肺にその清浄作用によって気道を清らかに保ち、下降作用によって水道が通調するのを助ける機能があることを説明したものである。また同時に肺は胸部の比較的高い位置にあるため、吸い込んだ清気や水穀精微の気を下に向かって散布し、それによって生体の正常な機能活動を保持していることも説明している。もし肺気が下降できなければ咳嗽・喘息などの症状が現れる。
肺は宣発を主る。
『中医基本用語辞典』
「宣発」は発散・散布するという意味。
「肺は宣発を主る」とは、肺は上に向かう上昇・発散と外に向かう散布の機能があることを指摘した定言である。
肺は気化作用により脾が転送した水穀の精微を全身の臓腑組織に輸布する。
また肺は皮毛を主り、衛気を宣発することによって汗を体外に排出する。さらに肺は宣発作用によって体内の水液代謝を促す。したがってもし肺が宣発機能を失えば、胸悶・咳喘・鼻閉・無汗・尿量減少・排尿困難などの症状が現れる。
このように肺の粛降作用によって気道を清らかに保っているのですが、鼻腔・副鼻腔・上咽頭・扁桃に炎症があると、気道の通りが悪くなり肺の粛降作用は妨げられます。
また肺は、外からの邪気(ウイルス・細菌・ハウスダスト・花粉・PM2.5・黄砂など)を侵入を防衛する衛気(えき)というものを宣発しています。
肺の粛降作用と宣発作用は、呼吸の吸うと吐くのように一対になっていますので、一つが乱れると必ずもう一つも乱れます。
よって衛気の宣発作用も妨げられて、外からの邪気を侵入しやすくなり排出する力も弱ってしまいます。
肺の粛降・宣発作用の低下として現れる症状として現れるのが、上記にかかれている胸のつまり・息がしにくい・せきなどです。
また肺の粛降と宣発作用は津液(体液)のめぐりに大きく関わっていますので、それらの低下から体液のめぐりの異常が生じ後鼻漏の質と量が変化して、不快症状が出現する事になります。
また炎症が副鼻腔・鼻腔・上咽頭・扁桃などの局所で続いてしまうと熱を生む事になり、粘膜が乾燥して陰虚(いんきょ)といわれる状態になります。
炎症が長引き乾燥状態が続くと、潤いの供給源である肺・胃・腎の陰も虚している事になり、水を飲んでも乾燥がとれない・すぐに乾燥する・いがいがする・ほてるなどの症状が出る事になります。
これにより後鼻漏の質は粘り気をまして、のどや鼻の奥にへばりつているような感覚がひどい時は何年にもわたり続いたり、粘り気の強い後鼻漏が流れるという症状がおこります。
炎症が強い事によって起こる後鼻漏の方のご相談にのっていますと、メンタルの不調を訴える方も少なくはありません。これに関しては最近の書籍では『「うつ」は炎症で起きる』エドワード ブルモア著や中医学の書籍では『温熱論』葉天士著・『中医治法与方剤』陳潮祖著などに書かれています。
鼻やのどの不調・後鼻漏に加えて、ブレインフォグやメンタルの不調がある場合は、逆伝心包(ぎゃくでんしんぼう)がおこり肺→心包(大脳)に炎症の影響が起こっている可能性が考えられます。
しかし副鼻腔・鼻腔・上咽頭・扁桃の炎症が顕著にみられる場合は、その炎症を鎮める事でブレインフォグやメンタルの症状も軽減していく場合も少なくはありません。
炎症が強い後鼻漏が治る仕組み
炎症が強い事によって起こる後鼻漏を治すには、何よりも炎症である火を消し、火の影響で乾いた組織に潤いを与える事です。
このタイプの後鼻漏の原因は副鼻腔・鼻腔・上咽頭・扁桃で起こってる炎症から始まっていますので、これを解消する事で、鼻やのどのクリンネス能力は戻り後鼻漏は治ります。
ただし全員が火を消す力や潤す力が強い漢方薬を継続的に飲めば良いというわけではなく、その人の体質と状態にあった漢方薬を選び、継続的に飲みながら経過を観察する必要があります。
火が強くないのに強い漢方薬を漫然と飲んでいると、胃腸の弱り胃腸の弱りからくる後鼻漏も併発する可能性があるので注意が必要です。(壊病)
よく使われる漢方薬
荊防敗毒散
比較的炎症が強くなかったり、炎症がはじまってから期間が短い時に使用します。(ただし炎症の強さと本人が感じる痛みや不快感の強さは必ずしも比例しません。)
胃腸の負担がかかる生薬が入っていませんので、胃腸が弱い人でも飲める場合が多く、後鼻漏の質は粘り気が少なく量は多めの時に使用すると、効果が出る場合が多いです。
現れやすい舌の状態は、淡紅舌・薄白苔・やや乾燥になります。
金羚感冒散加石膏・小柴胡湯加桔梗石膏
炎症が強かったり、期間が短くても炎症の原因であるウイルスなどの毒性が強い場合に使用します。
小柴胡湯加桔梗石膏に胃腸を温めたり機能を高めたり・痰や粘膜を乾燥させる半夏・生姜・人参・大棗などの生薬が入っていますので、後鼻漏の質・量・胃腸の状態・熱やほてりなどをみて使いわけます。
上咽頭や扁桃の炎症が強く、つばを飲みこんでも痛み・ヒリヒリしてつらいなどの痛みの症状が続いていてる状態であっても、炎症を鎮めて痛みを治す力をもっています。
痛みがおさまるとともに、後鼻漏はなくなっている場合が多いです。
現れやすい舌の状態は、舌尖紅舌・薄黄苔・やや乾燥になります。
竹葉石膏湯・辛夷清肺湯
炎症が長期間続いているために肺や胃の陰(うるおい)が損傷してしまい、鼻やのどの粘膜に違和感や乾燥を強く感じている場合に使用します。
後鼻漏の質はねばく・量は少ない傾向が多い時に使用すると、効果が出る場合が多いです。
ただし胃腸を冷やしたり潤したりする生薬が入っていますので、体質や状態によって胃腸の不調が出る場合もありますので注意が必要です。
現れやすい舌の状態は、紅舌・少苔・乾燥になります。
漢方薬の服用と併用した方が良い治療法
鼻腔・咽頭・扁桃などの炎症や、鼻やのどに存在するウイルスなどの邪気を直接除去できる鼻うがい・のどうがい・Bスポット療法は、局部に対する効果は漢方薬より高いので併用しましょう。
鼻うがい・のどうがい
水や消毒効果のある薬剤で、邪気(ウイルス・細菌・ハウスダスト・花粉・PM2.5・黄砂)を洗い流す事により一気に除去する事ができます。さらに炎症反応から出る炎症物質・老廃物・膿なども掃除する事ができますので、それらの停滞からおこる炎症反応を軽減する事ができます。
毎日の習慣にするとすっきり感も出てきますので、漢方薬を併用する事により治療効果が高くなります。
Bスポット療法
慢性上咽頭炎があり、後鼻漏でお悩みの方はまずは受けた方が良い治療法です。
鼻やのどから塩化を亜鉛をしみこませた綿棒を入れて、咽頭をこすりつけます。
炎症があるとすごく痛み、出血します。
Bスポット療法をおこなう施術者の腕の違いがありますので、痛み方やその後のすっきり感も違いがあります。
近所でBスポット療法を行っても全然痛まない場合は、ネットで評判の良いBスポット療法をおこなっている耳鼻科を探して行ってみる事をおすすめします。
Bスポット療法を継続的に受けている方の中には、地元ではなく県をまたいでBスポット療法で評判の良い耳鼻科まで通われる方は少なくないです。
- ウイルスや殺菌を殺し炎症を鎮める。
- 瀉血により上咽頭でうっ血していた血液のめぐりがよくなる。
- たまった炎症物質や老廃物を排出する。
- リンパのめぐりがよくなるので脳の老廃物も排出される。
- 迷走神経への刺激により免疫疾患の炎症を鎮める
Bスポット療法はこれらの効果が期待できますので、慢性上咽頭炎からくる後鼻漏でお悩みの方は漢方薬を服薬する前に。まずはBスポット療法を受けてみる事をおすすめします。
漢方薬の服薬は、Bスポット療法を続けてみて効果が感じにくい場合に併用するのが良いです。
たまにBスポット療法を受けて、乾燥が強くなったり倦怠感が出る方がいますが、そのような方は漢方薬を試してみてください。
漢方薬の服用以外にも食べ物や日光浴・お風呂にも注意が必要
自分に適した漢方薬を飲むだけでなく、食べ物が行動にも注意する必要があります。
食べ物に注意する
辛い食べ物は、炎症が強い事によって後鼻漏が起こる方は食べてはいけません。
例えば
しょうが・ネギ・にんにく・しそ・らっきょう・からし・シナモン・お酒・とうがらし・ししとうがらし・わさび・こしょう・山椒・豆板醤
などです。
これらの食べ物は、漢方薬に入っている生薬と同じぐらいの力を持っていますので、身体を温めたり発汗を促します。炎症がひどい方は1度の食事でも症状が悪化しますし、これらの食材を継続的に食べていると漢方薬を飲んでいても効果は感じられません。
行動に注意する
日光浴・炎天下でのランニング・長時間でのお風呂・サウナは注意が必要です。
これらの行動をとると上半身に熱がこもり、多くの汗をかく事になります。
中医学では津血同源(しんけつどうげん)という言葉があります。
津血同源とは
津と血はともに水穀の精微(すいこくのせいび)から化生し、いずれも人体内の陰液として各臓腑や組織を滋潤・濡養(じゅよう)する作用を有するため、津と血は同じ源から発するといわれる。津液は血液の組成分であり、両者は病理面でも互いに影響し合っている。例えば、失血過多のときに津液もそれに伴って失われるため、津液の不足が生じて、口やのどの乾燥・口渇・皮膚の乾燥・舌面の津液不足・尿量減少などの病理現象が現れる。また逆に、大汗・大吐・大瀉(激しい下痢)、あるいは温病の高熱によって津液が煮つまるなど、血脈も空虚になり、動悸・息切れ・四肢末端の冷え・脈微細などの症状が現れる。そこで臨床では、津血同源の理論から、失血の患者には発汗法を用いる事を禁じられています。
『中医基本用語辞典』
このように汗を過剰に出す事は、身体を栄養したり潤したりする陰液(いんえき)を失う事になります。
実際の相談でも、慢性上咽頭炎で上咽頭の痛み・強い乾燥・痰のへばりつき・後鼻漏でお悩みの方が、適した漢方薬で症状が改善してきたのに、炎天下でゴルフをしたり・岩盤浴・長風呂などで発汗した翌日に症状が初期の頃に逆戻りしたという経験は少なくありません。
漢方相談での実際の症例
後鼻漏の原因である慢性上咽頭炎について
後鼻漏のご相談の時に多いのが慢性上咽頭炎です。
以前に慢性上咽頭炎のブログを書いていますので、よろしければ参考にしてみてください。
大阪の浪速区にあるミズホ薬店の店主。
お店にひきこもって漢方の勉強をしたり、漢方相談をしながら暮らしています。